公正証書を活用する場面

日常生活では契約の存在を意識することも少ないものですが、人生の節目には誰もが重要な契約をする場面があります。

例えば、進学時の学校との契約、就職時の雇用契約、婚姻や子の誕生時の生命保険契約、住宅の建築請負契約や住宅ローン契約、相続時の遺言や遺産分割協議など、多くの契約をするものです。
ビジネスで契約書を交わす機会が多い方もみえます。

そのような数多くの契約の中で、口約束で済んでしまうものもあれば、厳格な手続をしなくてはならないものもあります。

例えば、次のようなケースでは厳格な手続が必要といえるでしょう。

「これから高額な金銭を貸すことにしたが確実に返済してもらわないと困る」

「傷害事件の被害者となったが損害賠償金を払ってもらえないと生活できない」

「離婚をすることになったが財産分与や養育費をしっかりと定めたい」

「遺言書を作りたいが法律の専門家のチェックを受けたい」

こうした重大事では、当事者だけで契約書を作成しても不安が残ります。
また、契約した金銭の支払いが履行されないと様々な計画が狂ってしまいます。

このような契約をする場合には公正証書を作成するとよいでしょう。

公正証書とは、公証役場で作成する契約書のことで、これを作成すると金銭給付に関する契約には強制力が伴い、契約違反には裁判を経ずに差押が可能になるという強力なものです。
その強制力から、契約相手が誠実に契約を履行しようという意識になる効果が期待できるのです。

大事な契約をする際には、公正証書の活用を検討するとよいでしょう。
当事務所では、地元の中津川市や恵那市の公正証書の作成を検討されている方はもちろん、全国対応で作成のサポートをしております。

遠隔地同士の方の代理で、当事務所にて公正証書の作成を承ることもできます。

セクハラや痴漢などの性犯罪の示談

痴漢やセクハラなどは警察で刑事告訴の手続きをすれば加害者を強制わいせつ罪などの罪に問えます。状況によっては。強姦罪が成立することもあるでしょう。
このような性犯罪については、警察も司法も厳罰で対応する傾向にあるようです。

また、このような被害については民事でも主に精神的損害に対しての損害賠償請求ができます。被害に遭われた方は対人恐怖や通勤への嫌悪感などで精神的疾患に追い込まれることも多いものです。その精神的損害を金銭で賠償してもらうということですね。

こうした性犯罪については、加害者と被害者の双方が表沙汰にしたくないという思惑が働くものです。
加害者にとっては性犯罪という前科がつくのは不都合ですし、被害者も事件の性質から出来るだけ内密に解決を図りたいと考えることが多いようです。

加害者に反省の気持ちがあり、被害者も補償をしてもらい立ち直ることを優先したいという考えに至れば、両者が協議をして示談によって解決するという方向性が見出せます。

ただ、ここで口頭での話だけで終わらせたら双方にリスクが残ります。

加害者は「相手が周囲の人の助言で警察に届出するかもしれない」「後から追加で費用請求されたら困る」という不安が拭えません。

被害者は「お金で解決したと安心されて、安易に再発するかもしれない」「自分のいないところでデタラメな噂を流されたら困る」というような懸念があるでしょう。

このような双方の不安を封じきるのが示談書の役割です。

傷害事件の慰謝料算定方法について

傷害事件の慰謝料の金額は、全治1週間前後の軽度の怪我の場合には5~10万円程とするケースが多いのですが、通院や入院の期間が長期となる場合は、交通事故の慰謝料額を基準に算定することが多いです。

例えば日弁連交通事故相談センターの交通事故損害額算定基準を参考として、この算定表の金額に何割かを乗じて算定します。
交通事故よりも傷害事件の方が悪質さの度合いは高いことが多いため、交通事故損害額算定基準よりも数割増しとするケースが多いですね。

慰謝料の他にも、治療費の実費や休業補償費なども加算して、損害賠償金の総額を定めることになります。

これらの損害賠償金の金額を協議で定めたら、その支払い方法や刑事告訴の扱い、再発予防策などを記載した示談書を作成し、解決を図ります。

情報資産を脅かす犯罪と法律について

IT機器や業務用ネットワークシステム、パソコンに蓄積した業務用データなど、これら情報資産を損壊した場合は、事業に多大な損失が生じます。
他人や場合によっては社員によって、情報資産が損壊や破棄、改ざんされるリスクは高まっているとも言えるでしょう。
情報セキュリティの観点から、これら情報資産を守るために押さえておきたい法律を列挙します。

不正アクセス禁止法

不正アクセスの定義を「アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為」と定めています。
つまり、パスワード等のアクセス制限を施されているコンピュータに、ネットワーク経由で不正侵入をした場合には、同法の罰則対象となります。(この不正アクセスには、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金という罰則が定められています。)

刑法

第234条 威力業務妨害
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)

第234条の2 電子計算機損壊等業務妨害
人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作させず、又は使用目的に反する動作させて、人の業務を妨害した者は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

第246条の2 電子計算機使用詐欺
前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。

第161条の2 電磁的記録不正作出及び供用
1 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
3 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第1項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
4 前項の罪の未遂は、罰する。

第258条 公用文書等毀棄
公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

第259条 私用文書等毀棄
権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、5年以下の懲役に処する。

上記のように、情報資産を改ざん、毀損、損壊させた場合は、その加害者に対し刑事上の責任を問うことも可能です。
こうした事件が発生した場合は、民事での損害賠償と刑事告訴の扱いを検討し、その解決を図ることになります。
そのような事態を予防するため、社内では情報セキュリティについて、法律面での教育も必要と言えるでしょう。

当事務所では、情報セキュリティに関する社内教育やISMS等のコンサルティング業務も承っております。

不倫を清算する場合の注意事項

既婚者との交際(不倫)は、性交渉が伴えば不貞行為となり、既婚交際相手の配偶者に対して損害賠償(主に精神的損害)をする責任が生じます。
それでも不倫をテーマとするドラマや小説が氾濫しているように、不倫は珍しい問題では無いと言えるでしょう。
ドラマのようにドロ沼化するケースは氷山の一角で、そのほとんどが当事者間で密かに解決を図られているのが実態です。

不倫を解消する場合も、不倫の交際をしている者同士が平和的話し合いで解決するケースもあれば、既婚者の配偶者に不倫が露見して慰謝料を請求されるようなケースもあります。
また、配偶者に不倫が露見するケースでは、それによって離婚する場合とそうでない場合もあります。

このように一言で不倫と言っても様々なケースがあり、事後のトラブルを予防する上でも検討するべき対策は多いものです。
交際相手の配偶者に支払う慰謝料の水準や、追加請求が発生しないための対策は特に気にかかるところです。(不倫の当事者同士のみの話し合いで交際を解消する場合に、一方に示談金を支払うケースもあるでしょう。これには法的な支払い義務はありません。)
再発を予防するための条件や罰則設定も検討が必要です。また、今後の生活を平穏に送るためには、職場や親族に内密にしておく必要があり、そのための対策も必須です。

こうした不安材料を潰すための契約をして、関係者がその契約を守ることを誓約するのが示談書の役割です。
お客様自身が作成された示談書の点検をする機会も多いですが、検討不足や効力に問題がある文書が目立ちます。その場しのぎの苦し紛れの示談書では、不安は解消できません。やはり、事後のトラブルを予防するという観点から契約内容を厳密にして、その後の不安を完全に塞いでおきたいものです。

慰謝料と加害者の支払い能力について

男女トラブルや傷害事件等で、損害賠償の問題となったときに、本来ならその損害の程度に応じて加害者は補償をする義務があります。
しかし、このようなトラブルを引き起こす加害者は、まともに就業していなかったり経済的に破綻しているケースも目立ちます。

そのような加害者に損害賠償請求をしても、支払い能力が無くて話し合いがつかないことも多いです。
当事者で協議が出来ないときは訴訟ということになりますが、訴訟に勝ったとしても加害者に見るべき資産が無く、結局請求通りの金額は得られないという最悪の事態もありえます。

本当なら、被害者の損害に応じて補償されるべきで、加害者の経済状態は損害賠償の請求額には関係が無いはずです。
しかし、現実としては加害者の資産以上には補償が得られないものです。
そういう事情から、加害者の収入に応じて損害賠償金を定めたり、長期分割による支払いを認めるなどの現実的対応が求められる局面も多いです。
被害者から見れば、加害者の支払い能力に損害賠償の金額が制約されるのは納得がいくものでは無いでしょう。しかし、そこを度外視しては解決に結びつかないのも確かです。
損害賠償金をどのように定めるかは、加害者の支払い能力と示談の交渉次第ということになります。

盗撮等の迷惑防止条例違反について

痴漢やセクハラ等と比較すると、下着の盗撮やのぞき等の迷惑防止条例違反の行為は、被害者に身体的接触の苦痛がない分だけ、刑事の処分も軽く、民事の慰謝料の金額も低額になる傾向があるようです。
継続性がなく、単発的な盗撮やのぞき行為であれば、慰謝料については5~10万円程度で和解とする事例が多いです。
(民事で訴訟をしたとしても、犯罪性としては軽微なので、被害者が高額な慰謝料を得ることは難しいものです。)

ただ、盗撮やのぞきについては、加害者に常習性があることも多いので、反省を促して再発をさせないという確約をとって解決を図りたいものです。
加害者側も社会的立場があるので、誠意をもって謝罪し、事件の秘密や個人情報を外部に漏らさないように契約を交わして示談としたいところでしょう。

そのような観点から、再発予防や守秘義務を定め、その契約内容を互いに厳守する示談書を作成したいものです。

契約トラブルと慰謝料

事業者と個人の契約トラブルについては、基本的にはトラブルによって被った物質的(金銭的)補償が行われたら、精神的損害も補填されたとみなすのが判例の主流です。
例えば、商品運搬時の破損や旅行契約の手配ミスなども、破損物や手配ミスに関して金銭的保証がされれば、それ以上の精神的損害の慰謝料請求は困難ということになります。

但し、そのような物質的賠償だけでは回復されない特別の事情(特別な精神的損害)があれば、慰謝料が認められるケースもあります。
以下に一般の契約トラブルに関して、慰謝料が認められるケースを例示します。

高額な対価を支払ったケース
土地や建物などの取引で、1,000万円以上の支払いをしているケースでは、物的損害の補償の他に、慰謝料を認めている判例が散見されます。

投機目的の売買ではないこと
投機対象として不動産や先物取引等の金融商品の取引をした事例では、慰謝料が認められる余地は少なくなります。
これは契約者の自己責任という面が強いためです。
慰謝料が認められる程の精神的損害を主張するには、契約内容に投機的動機が含まれないことが前提となります。

特定の時期でしか意味の無い契約であること
新婚旅行契約のように、そのタイミングで履行されなくては意味が無い契約は、手配ミスがあった場合は代替がきかず、精神的苦痛も大きくなると推定されます。
このような場合には精神的損害についての慰謝料が認められる可能性は高いといえます。

一定期間継続的にサービス提供をする契約
学習塾や老人ホーム等のように、一定期間継続的にサービスを利用しないとその評価ができない契約は、簡単に他の事業者との契約に乗り換えるのは困難であり、後戻りできない時間や労力を考慮して慰謝料が認められる余地があります。

慰謝料を分割払いにする場合は、示談書作成の際に注意が必要です

不倫や傷害事件などの精神的・肉体的・経済的損害について、加害者側は慰謝料を支払うことで損害賠償をして、解決を図るのが通例です。

この場合に、慰謝料の金額や加害者側の経済事情によっては、慰謝料が分割払いになるケースも多いものです。
被害者側からすれば、慰謝料が分割払いになると、途中で支払いがされなくなるという不安がつきまといます。

こうした事件の解決には示談書を作成するわけですが、慰謝料が分割払いになる場合には、確実に全額が支払われるように示談書の条項に検討を加える必要があります。
慰謝料が分割支払いなのに、一括支払いと同様の文言で済ませてしまうケースが見受けられます。このように検討不足の示談書では、分割金の支払い遅延が問題になったときに、有効な対策がとれずに結果として泣き寝入りしてしまうことにもなりかねません。

慰謝料が分割払いとなる場合には、分割支払いの方法や期限、支払い遅延への罰則、支払い事故への対処方法などを明確にしておく必要があります。
支払い開始時期や支払い月額、支払い完了期限等の基本的な事項も曖昧になっているケースも多いので注意が必要です。
金額が大きい場合は、公正証書にする必要もあるでしょう。(公正証書にするかどうかは、少額訴訟制度の限度額の60万円を基準にすることもできます。)

不当解雇の和解

企業がリストラを進める際には、退職勧告が行き過ぎて不当な行為を重ねてしまうケースも多いようです。
企業と従業員がその是非について争う場合は、最終的には訴訟に持ち込むしかありません。

しかし、相互の協議により歩みよりの余地がある場合は、企業側が非を認めることもあります。
協議によって解雇が撤回される場合も、それまでのしこりから、実際には従業員が勤務を継続するのは難しいものです。

そのようなケースでは、解雇を無効として契約期間の賃金を補償し、退職金も正当に支払い、従業員に与えた精神的苦痛に対する慰謝料を補償することで、円満退社という扱いにすることが多いものです。
その際には、従業員にはトラブルに関する守秘義務を課し、以後には追加請求をしないことを明確に誓約させる示談書を作成しておくべきでしょう。

不当解雇の精神的損害に対する慰謝料としては、その期間や内容によっても異なりますが、事例として東京地裁の平成4年3月30日判決(判時1421-129)等が参考になります。
この件では、整理解雇の無効を訴えた原告が500万円の慰謝料を請求し、解雇無効が認められましたが、慰謝料は50万円が認容されました。

セクハラの事業主責任

セクハラ行為が職場にて発生した場合、従業員を雇用している企業にも監督(使用者)責任が生じます。セクハラ被害者は、加害者と使用者の両者に対して責任を追及することが可能となります。
判例でも、職場でのセクハラ行為については使用者責任を認める傾向にあり、企業はセクハラ防止の努力が求められます。

職場から離れた場所でのセクハラ行為についても、その場所に居たことに職務関連性が認められれば、使用者責任が認められることもあります。
例えば、職場から離れた飲食店でのセクハラ行為があった場合でも、職場のコミュニケーションを理由として上司が部下を誘った場合等には、判例でも使用者責任が認められています。

企業側としては、従業員から職務関連でのセクハラ行為が報告された場合は、即時に再発防止の対策をとり、被害者への補償について誠意を示し、示談書を作成して事後に問題が起きないように対処するべきでしょう。

慰謝料の支払いが滞る場合

加害者が慰謝料の支払いを認めて示談書を作成し、最初は分割支払いをしていたが、次第に支払いが滞るという事態は多くみられます。
このように慰謝料の支払いが曖昧にされるのは避けたいものです。

示談書を公正証書にしてあり、期限の利益喪失条項が適切に定めてあるなら、支払い遅延があった段階で相手方の財産に強制執行(差押さえ)ができます。

公正証書が用意できていない場合は、回収のための手続を進めていくしかありません。

具体的には、まずは相手方に督促をして、返済条件を確認します。その協議の結果として、返済月額を変更するという現実的対応をすることも多いです。
ただ、口頭で返済条件を緩くするだけでは益々不安定となるので、返済内容をより明確にする債務承認弁済契約書を作成しておくと良いでしょう。
この債務承認弁済契約書を公正証書にしておけば、より確実です。

債権額が60万円以下であれば、簡易裁判所に少額訴訟を提起するという方法もあります。
少額訴訟は簡易裁判所の窓口で手続を教えて貰えるので、一般の方が単独で行うことができます。少額訴訟は原則として1日で結論が出るので、示談書等の慰謝料についての証拠資料があれば、比較的容易に判決を得ることを期待できます。

ただ、債権額が60万円よりも高額となる場合は、通常の訴訟となるので弁護士に相談されるのが無難となります。

学習塾講師と生徒間でのセクハラ

学校や学習塾という環境において、指導者という立場を悪用した生徒へのセクハラ行為が問題となることもあります。
一般的には女子生徒が被害に遭うことが多いのですが、従属的な立場で強く拒否できなかったり、家族にも相談し難いという面が問題発覚を妨げる傾向にあります。
このような指導者による性的接触の強要に関しての判例を挙げてみます。

学習塾教室での補習授業中に、生徒が断ったにも関わらず、経営者が背中から腰のあたりをマッサージし、首に腕を回して体に覆いかぶさり、顔面を頬にすりよせ、接吻するような仕草をし、制止しても止めなかった。
これに対し原告は300万円を請求して訴訟を提起し、60万円の認容となった。
(平10・11・24 東京地判 判時1682-66)

指導者から教え子に対するセクハラの慰謝料が、60万円が高額か低額かは見解の分かれるところですが、その継続性や生徒に与えるダメージの度合いによって評価されるところです。
このような問題に関しては、父兄を交えて協議し、再発予防や生徒の立ち直りを優先して結論を出したいものです。

別居状態の夫と不倫をしても慰謝料は請求されない?

別居等で事実上の婚姻生活が破綻した夫婦の一方(例えば夫)と男女の交際をした場合、それでも形の上の妻から慰謝料請求をされるという事例は多いものです。
このようなケースでは、妻に対して慰謝料を支払う義務はあるものでしょうか?

判例(平8・3・26最判)では、以下のように示しています。(判タ908-284)

原告(妻)とA男(夫)は、昭和42年に結婚したが、性格の不一致から昭和62年にA男はマンションを購入し原告と別居した。
その後、A男はホステスをしていた被告と知り合った。被告はA男が妻と離婚することになっていると聞き、A男と同棲するに至った。
この事案に対し、配偶者と第三者が肉体関係を持ったとしても、夫婦関係が当時破綻していた場合は、第三者は不法行為責任を負わないとして、原告(妻)の慰謝料請求を認めなかった。

この判例では、別居中の夫と肉体関係を持ったホステスに対して、妻は慰謝料を請求できないとしています。
つまり、長期間の別居状態にある夫婦の一方と肉体関係を持ったとしても、相手方配偶者は交際相手に対して慰謝料を請求することはできないということです。長期間の別居に至る原因は他にあるという判断ですね。

ただ、別居はしておらず、夫に「妻とは離婚協議中だ」とウソをつかれていた場合は微妙です。このようなケースでは夫婦関係に問題が無い場合も多く、それを見抜けなかった交際相手にも落ち度はあるという解釈もできます。

誓約書と示談書の違い

誓約書と示談書の違いについて疑問に思うことがあると思います。
どちらも何らかの問題に関して、謝罪や再発防止について記述する文書という点では類似性はあります。

誓約書は加害者側が一方的に謝罪し、慰謝料の支払いや再発防止等を誓約するものです。
形式的には誓約書1通を作成して、それを被害者側が保管することが多いですね。
問題は一方的に誓約をする文書なので、加害者側の要望が反映されないことが多い点です。
慰謝料の追加請求の排除や被害者側も守秘義務を負うという視点が欠ける場合があります。

示談書は加害者と被害者の双方が様々なとりきめを定めて、それを相互に遵守することが前提となります。
形式的には示談書を2通作成し、加害者と被害者の双方で1通づつを保管します。
つまり、加害者も被害者も両方共に守秘義務を負い、問題を複雑にしないことを主目的にしています。

トラブルを解決する際には、やはり両者の合意が前提になるので、片方だけが誓約する形式では問題の火種を残すことになりかねません。
より完全なトラブルの予防まで視野に入れるなら、やはり両者で保管する示談書を作成しておくべきでしょう。

一方的に提示された誓約書に不安を感じる場合は、その内容を網羅した上で示談書を作成し、互いに納得のいく契約書類に仕上げる努力が求められます。

以下は遠山行政書士事務所が運営するサイトです。
ホームページと著作権と契約書作成エクスプレス
損害保険と生命保険の遠山行政書士事務所
海外旅行保険等のレジャー保険エクスプレス
趣味サイト
浜田省吾Way

性交渉の不存在が離婚原因となるケース

民法では第770条に離婚となる正当な原因を定めています。
具体的には、配偶者の不貞行為・悪意の遺棄・生死が3年以上不明・強度の精神病・その他婚姻を継続し難い重大な事由が列挙されています。

配偶者が一定の期間に正当な理由無く性交渉を拒み続ける場合も、婚姻を継続し難い重大な事由となり、離婚の正当な原因として認められる傾向にあります。
このような性交渉の不存在が離婚原因となる場合に、性交渉を拒む配偶者は精神的損害に対する慰謝料を相手方に支払うように命じる判例もあります。

婚姻9ヶ月で妻の性交渉拒否により離婚に至ったとして、夫は妻に対して500万円の慰謝料を請求した。
裁判では婚姻関係の破綻は、妻の性交渉拒否にあると認定。夫婦の性交渉は通常伴うべき婚姻の営みであって、当事者がこれに期待する感情を抱くことは至極当たり前の自然の発露である。したがって、妻は夫の受けた精神的苦痛を慰謝すべき義務を負うとして、150万円の慰謝料を認容した。
(平3・3・29 岡山地津山支判)

婚姻当初から正当な理由も無く性交渉を拒み続けるケースは、離婚原因となり場合によっては慰謝料の支払い義務も生じるということです。
但し、配偶者の体調不良など性交渉に応じられない理由があれば、これを離婚原因とすることはできません。

以下は遠山行政書士事務所が運営するサイトです。
ホームページと著作権と契約書作成エクスプレス
損害保険と生命保険の遠山行政書士事務所
海外旅行保険等のレジャー保険エクスプレス
趣味サイト
浜田省吾Way

不貞行為に関する判例の傾向

不貞行為をした相手方に対する慰謝料請求については、最高裁の次の判例(最判昭54・3・30)が解釈の基準とされることが多いようです。

夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務がある

このように、配偶者が既婚者であると知りながら不貞行為をした者には慰謝料支払いをする義務を認めています。(逆に言えば、独身者と誤認させられた上で交際していたケースでは、配偶者の慰謝料請求権は微妙となります。)

上記の原則論に対し、不貞行為の相手方に対する慰謝料請求権について、制約を加える判例も多くあります。

要は不貞行為の主責任は配偶者にあり、不貞行為の相手方に過大な請求をするのは制約される傾向があるようです。
不貞行為の責任は、不貞行為をした配偶者自身に負って貰うのがスジということでしょう。
もちろん、だからと言って不貞行為をした相手方の責任が無くなるわけではありません。

以下は遠山行政書士事務所が運営するサイトです。
ホームページと著作権と契約書作成エクスプレス
損害保険と生命保険の遠山行政書士事務所
海外旅行保険等のレジャー保険エクスプレス
趣味サイト
浜田省吾Way

名誉毀損の慰謝料

名誉毀損とは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」(刑法第230条)することがその成立の要件となります。
つまり、名誉毀損の刑事告訴には、公衆に知られる状態で名誉を傷つけられたという事実が必要です。

このような名誉毀損やプライバシー侵害の慰謝料額は、過去よりは相場が上がってきたものの、依然として低い傾向にあります。

また、著名人には比較的高額な慰謝料を認めつつも、一般人には極めて低額という傾向もあります。
例えば、NTTの電話帳掲載を巡ってのプライバシー侵害の訴訟では、被害者が500万円の慰謝料請求をしていますが、認容額は10万円でした。(東京地判平10.1.21)

ただ、訴訟においては、加害の動機や真実性など、被害者の事情として社会的地位や営業損失などを考慮して、慰謝料の高額算定に務める動きはあるようです。
(当事務所では、名誉毀損やプライバシー侵害に関しての専門性は無く、こうした事件に関する慰謝料算定は対応しておりません。)

被害者と加害者の双方が訴訟で争うことを望まず、互いに慰謝料額についての合意ができる状況であれば、再発防止のための特約や守秘義務を設定し、示談書を交わして解決を図るのが適切です。

迅速な示談書の作成なら示談書作成エクスプレス

不当解雇の慰謝料について

いかなる理由でも、会社が従業員を解雇する場合には、労働基準法に沿った手続が必要となります。
具体的には、労働基準法第20条に基づいて「解雇する30日前に解雇予告をするか、または30日分以上の平均賃金を解雇予告手当てとして支払う」必要があります。(但し、天災事変や止むを得ない事情で事業の継続ができなくなった場合で、労働基準監督署の除外認定を受けた場合は、この限りではありません。)

また、従業員が解雇の理由を明示するように求めた場合は、同法第22条により会社は解雇事由の証明書を発行する義務が生じます。(労働者が明示を求めなければ、証明書の発行は必要ありません。)

上記の手続を経たとしても、会社は解雇の権利を濫用することは許されません。
労働基準法第18条の2には「合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。

一度は会社が解雇を通知したものの、その後の協議で不当解雇であったことを認め、解雇を撤回するようなケースもあるでしょう。
その場合には、従業員が就業していなかった期間について、未払い賃金が支払われることになります。会社としては、労働力の提供を受けていないにも関わらず、賃金を支払うことになります。

問題は、その未払い賃金の他に、慰謝料を認めるかどうかです。
不当解雇に至るまでに、従業員に対して精神的苦痛を与えたり、名誉毀損の事実があれば、判例でもそれが不法行為にあたると認め、慰謝料を認容したケースはあります。
慰謝料額については、不法行為の程度や期間によって異なります。
協議によって慰謝料額について決定できない場合は、訴訟ということになります。

素早いクーリングオフならクーリングオフ・エクスプレスです。 悩ましい示談書の作成は示談書作成エクスプレスへ。

強制わいせつや強姦の示談による慰謝料

強制わいせつや強姦は刑法犯罪となり、被害者の女性が刑事告訴を行えば、加害者は刑事上の責任を問われ処罰されます。
同時に民事でも、民法の不法行為規定(民法709条・710条)に基づき、被害者は慰謝料を請求することができます。

単発の痴漢やセクハラ等の強制わいせつ(または準強制わいせつ)については、加害者が謝罪の意思を示し、被害者が和解に応じる場合は、慰謝料額については概ね30~50万円位の分布が多く、100万円以下で話し合いをつけるケースが目立ちます。
(セクハラ行為が長期間継続するような案件は、100万円以上となります。)
示談が成立したことを警察や検察に届け出れば、減刑の検討がされることも多いようです。

一方、強姦については、民事の慰謝料額も100万円以下というケースは稀で、100~200万円位の分布が多いようです。中には500万円というような高額の事例もあります。
強姦に関しては、警察・検察も対処が厳しく、民事の示談が成立しない場合は、特に厳刑となる傾向があるようです。
この場合は実刑もありうるでしょう。
(以上の慰謝料額分布の傾向については「慰謝料算定の実務」千葉県弁護士会編 より)

強制わいせつも強姦も、被害者が告訴をしなければ刑事処分の対象とならない親告罪(刑法180条1項)なので、警察に届け出る前に当事者で協議をして、示談を成立させて刑事告訴をしないという解決事例は多いです。
被害者も事件を公にするより、誠意を尽くした謝罪を受け、通常よりは高額な慰謝料を受領する方が実益があるとの判断です。

但し、強制わいせつや強姦について、加害者が二人以上で共同で行った場合は、親告罪の対象とはなりません。(刑法180条2項)
そのようなケースでは、刑事事件として公訴され、厳刑処分の対象となります。
当然ながら、加害者は民事でも誠意を尽くして謝罪し、被害者の精神的損害を償うべきです。

騒音や悪臭等の相隣問題の慰謝料について

相隣関係において、騒音や悪臭についての慰謝料が認められるには、通常の受忍限度を超える被害が継続していることが要件となります。(つまり、ある程度の我慢は必要です。)
騒音を問題とした判例を、いくつか参照してみます。

隣接する田地における砂利採集作業の騒音により、飼育していた雉の大半を失った事案。加害会社は被害者との協議を拒み、何の騒音対策も取らなかった。被害者に30万円の慰謝料が認容された。
(福岡高判 昭62・2・25 判タ655-176)

隣地のカラオケボックスからの騒音が、午前0時以降の排出基準を超え、違法性があったと認定された事案。3名の被害者のうち、1名は甲状腺機能亢進症と診断された。甲状腺機能亢進症の被害者には30万円、その他の被害者には20万円の慰謝料が認容された。
(札幌地判 平3・5・10 判時1403-91)

家主の飼育するシェパードの鳴き声や悪臭による迷惑被害に対し、10万円の慰謝料が認容された。
(京都地判 平3・1・24 判タ769-197)

以上のように、騒音や悪臭については、健康被害に結びついているものは慰謝料も高額認容の可能性はありますが、概ね10万円から50万円までの低額で認容されている事例が多いです。

相隣関係で、騒音や悪臭に関して、示談により解決を図る場合は、このような判例を参考にして慰謝料を取り決めすると良いでしょう。

男女問題や傷害事件などの和解文書作成には、悩ましい離婚協議書や示談書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトをご覧下さい。

離婚慰謝料と財産分与の区別

離婚の際、配偶者に不貞行為などの明確な責任がある場合は、慰謝料を支払うことになります。
慰謝料とは別に、婚姻後に築いた財産を分けて分配する財産分与も同時に行います。
しかし、この慰謝料と財産分与の区別を曖昧にしたまま、離婚協議を終えてしまうことも多いのが実情です。

判例では、財産分与に慰謝料的要素が含まれているときには重ねての慰謝料請求はできないが、財産分与がされていても、そこに精神的苦痛に対する慰謝が不十分な場合は慰謝料請求権は消滅するものではないとしています。

離婚協議書を作成する場合、「甲乙は本契約書に定める以外には、相互に債権・債務の存しないことを確認する」等の清算条項を盛り込み、追加請求をしないことを誓約するのが一般的です。
これは事後に追加請求などのトラブルを防止する目的で定める訳ですが、財産分与と慰謝料の区別が不十分な場合は、「財産分与は得たが、慰謝料は不十分であった」等の理由を根拠にトラブルが再燃する可能性を残します。

このようなトラブルの芽を摘んでおくためにも、慰謝料と財産分与は区別して、離婚協議書に明示しておくべきでしょう。

男女問題や傷害事件などの和解文書作成には、悩ましい離婚協議書や示談書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトをご覧下さい。

公正証書と和解調書

慰謝料を得るために、相手の財産に対して強制執行(差押)をかけるには、基本的には裁判所のお墨付きを貰わなくてはいけません。
このお墨付きのことを「債務名義」と呼びます。

債務名義を得るには、以下の方法があります。

訴訟の確定判決を得るまでには、半年から数年の裁判を経ることが必要となります。慰謝料を早く得たい場合には、最も不向きな手続ですが、相手方と意見が対立する場合には、訴訟で決着をつけなくてはならないことも多いです。

公正証書については、裁判所ではなく、公証役場で作成ができます。但し、公正証書の場合は、金銭的給付に関する契約しか拘束力はありません。親権や土地の明渡し請求等には、不向きといえます。
公正証書の原案を事前に作成した上で、公証役場と協議を行えば、数日のうちに手続を完了することができます。短期間に金銭的契約を確定させたい場合は、公正証書が最適です。

和解調書は、親権や土地の明渡し請求など、金銭的給付以外の条件でも、拘束力をもった契約が可能となります。
即決和解や民事調停という裁判所での手続を経れば、和解調書の作成は可能です。
但し、即決和解の場合でも、申し立てから作成まで1ヶ月くらいかかり、その間に何度か裁判所に出頭する必要があるので、手続を急ぐ場合には不利です。
民事調停となれば、協議がまとまらなければ、数ヶ月を要することもあります。

当事務所では、公正証書作成のご支援をしております。
民事調停など裁判所に関する書類作成は、行政書士業務の範囲外となるため、当事務所では関与できません。

男女問題や傷害事件などの和解文書作成には、悩ましい離婚協議書や示談書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトをご覧下さい。

傷害事件の慰謝料額

傷害事件の慰謝料については、明確な基準はありません。
被害者感情が優先されるので、特に高額な慰謝料が請求されるのでなければ、概ね被害者の請求額がそのまま認められるケースも多いです。
(加害者の経済力も影響しますから、その支払能力を超えた金額を請求しても、支払いの期待はできない場合もあります。逆に、加害者が事件を公にしたくないとの理由から、通常では考えられない高額な慰謝料で和解することもあります。)

刑事手続の起訴前であれば、民事で慰謝料を支払って和解すれば、起訴猶予や罰金処分で済むことも期待できるので、加害者も積極的に示談をしようとする傾向にあります。

その際に、慰謝料をどのくらいにするべきかというご相談は多いです。
明確な基準は無いのですが、怪我の程度によってある程度の傾向はあります。

全治1週間程度  1~5万円
全治1~2週間  5~20万円
全治2~3週間  20~30万円
全治4週間程度  30~50万円

この位の金額を基準にして、事件の悪質性や刑事告訴への影響なども加味しながら、話し合いで金額を定めることが多いです。
慰謝料額について合意ができれば、示談書を作成して、和解の事実を残しておくべきでしょう。
示談書は、慰謝料支払いの方法、刑事告訴や減刑嘆願について、再発予防、守秘義務、追加請求の排除などを定めて、後からトラブルが再燃するのを予防することを目的とします。

示談の交渉は、被害者と加害者のどちらからアプローチをすると決まっている訳ではありません。
よく「相手方からの連絡を待っていたら、何の予告も無く訴訟が始まってしまった」という声を聞きますが、それは行動が遅すぎるということですね。
週に1度くらいは連絡を入れ、協議を進めなくては、話がまとまりません。

話し合いで折り合いがつかない場合は、民事訴訟を視野に入れて行動することになります。
協議が整わないケースは、弁護士にご相談下さい。

男女問題や傷害事件などの和解文書作成には、悩ましい離婚協議書や示談書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトをご覧下さい。

セクハラの判例に見る慰謝料認容額

セクシャル・ハラスメント(セクハラ)とは、雇用上の関係を利用して行われる相手の意に反する性的な言動ですが、もっと広く解釈して、雇用関係を問わず、相手の意に反する性的な言動と捉えることもあります。

以下にセクハラに関する数件の判例を見てみます。

入社後間もない女性に対し、「したことないねんなあ。処女か」「AVのビデオ見たことあるか」「わし、あんたが欲しいねん」などと言って、社長がホテルへ誘うなどした。
女性は150万円を請求し、50万円が認容された。
(平7・8・29大阪地判 判タ893-203)

職務上の懇親会の後、自らの性器を露出させた校長が、女性教師の手を無理矢理つかんで性器にこすりつけた。
女性教師は300万円を請求し、50万円が認容された。
(平8.4・15東京地八王子支判 判タ924-237)

会社社長が女性従業員に対して、継続的に後ろから抱きついたり、スカート内に手を入れたりして、料理屋で酒を飲ませモーテルへ連れ込み姦淫した。
その後、女性従業員は退職を余儀なくされた。
女性従業員は300万円を請求し、300万円が認容された。
(平10・3・6千葉地判 判タ1026-240)

修士論文の指導をする助教授が、女子大学院生に対し関係を迫り、三回に渡ってホテルで肉体関係まで結ばせた。
女子大学院生が関係を拒絶すると、露骨な報復行為をした。
女子大学院生は1,000万円を請求し、750万円が認容された。
(平11・5.24仙台地判 判タ1013-182)

判例の傾向としては、従属的関係にある相手に無理矢理に姦淫をした事例には、高額な慰謝料を認容しています。
一方で、性交渉に至らない言葉や接触止まりのセクハラ行為に関しては、50万円~100万円程度の認容額となっています。
継続性のない言葉や接触のみのセクハラ行為に関しては、更に低額になるものと思われます。

セクハラ事件について、示談で解決を図る場合には、以上のような金額が一つの目安となるでしょう。

男女問題や傷害事件などの和解文書作成には、悩ましい離婚協議書や示談書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトをご覧下さい。

内縁関係の破棄

婚姻の意思と共同生活(同棲)の実態がありながら、婚姻の届出をしていない状況を内縁関係と称します。
内縁関係を不当に破棄した場合は、破棄した側は婚姻の破棄(離婚)と同等の責任が生じます。

内縁破棄の責任については、婚約の不履行責任と解釈されたり、不法行為責任と解釈されたり、判例も状況によって不当に破棄した者の責任を認めています。

内縁関係の一方に配偶者がいる場合は、重婚関係の問題も生じます。
内縁関係の破棄の責任を問う場合に、相手方が重婚関係である場合は、内縁関係にどれだけの法的保護が与えられるのかが焦点となります。

妻子ある男性と未婚の女性が、約30年間内縁関係を続け、男性が一方的に内縁関係を破棄して生活費を支払わなくなった。
これに対して女性は10億円の慰謝料請求を行い、判決は1,000万円の認容をした。
(平3・7・18東京地判 判時1414-81)

この判例で「妻との婚姻関係が形骸化している場合は、内縁関係に相応の保護が与えられるべき」との判断が示されています。

つまり、内縁関係の一方が既婚者であっても、その既婚者の婚姻生活が実質的に破綻していた場合は、内縁関係を不当に破棄をした責任を問うことができます。
よって、内縁関係破棄についての慰謝料を請求することは可能となります。

男女問題や傷害事件などの和解文書作成には、悩ましい離婚協議書や示談書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトをご覧下さい。

示談書のコツとは?

男女問題や傷害事件、過失事故など、何らかのトラブルが生じたら、基本的には話し合いで解決を図ると思います。
話し合いのポイントとしては、謝罪・慰謝料金額の定め・再発予防等になりますね。

最初は感情的になって口論にもなるでしょうが、今後のことを考えれば、大人の解決をしなくてはなりません。
示談をするからには、後に問題を残さないように、トラブルの種火を完全に消しておく必要があります。

そこで、和解に必要な条件を、具体的に話し合わねばなりません。
以下に、示談の際に明確にしておきたい条件を検討してみます。

慰謝料額

何といっても、謝罪の誠意を示すには、慰謝料の金額が重要です。
しかし、加害者の経済力を超えた金額を請求しても、現実的ではありません。
同様事例の慰謝料の平均的な金額を参考にして、慰謝料額を確定させる必要があります。
時には一括払いが無理なこともあるでしょう。その場合は分割払いで承諾するしかありません。
分割払いになる場合は、途中で支払いが曖昧にならないよう公正証書を作成して、互いに
納得ができるようにしましょう。

刑事告訴の扱い

傷害事件や痴漢、強姦など、刑事事件の場合には、民事の示談手続の他に、警察(検察)に対する刑事告訴の扱いが焦点となります。
慰謝料の上積みで加害者が誠意を示し、被害者が刑事告訴を取り下げるという事例も多いです。
警察(検察)は民事の示談交渉には関与しませんから、当事者で話をして、和解が可能であれば、示談書を作成することで解決を図ります。
その際に、刑事告訴の取り下げや減刑嘆願をする旨も、取り決めしておくべきでしょう。


再発防止策

傷害事件や過失事故、不倫等では、再発防止のための取り決めが重要となります。
和解した後に、同様のトラブルを繰り返したのでは、示談の意味がありません。
そこで、加害者に対し接近禁止などの制限を加え、違反した場合の罰則まで明確にしておくべきでしょう。

守秘義務

加害者も被害者も、トラブルの事情を人には知られたくないものです。
特に会社や親族、地域社会には漏れないようにしたいというのが本音でしょう。
そのためには、事件の秘密を第三者に漏らさないよう、厳しい守秘義務を設定するべきです。
また、守秘義務が単なる掛け声で終わらないよう、違反時の罰則まで決めておく必要がありますね。

以上が示談書を作成する場合の重要点ですが、それぞれの事情によって、条文を作る必要があります。
事件の内容や人間関係によって、契約内容のバランスを考慮しなくてはいけません。

男女問題や傷害事件などの和解文書作成には、悩ましい離婚協議書や示談書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトをご覧下さい。

婚約破棄に関する親の責任

婚約破棄(婚姻予約の不履行)については、判例の慰謝料認容額を見ても、それほど高額にはならない傾向があります。
婚約を一方的に破棄された立場からすれば、その精神的損害は図り知れないものですが、その損害額の算定は難しい面も多いです。
また、婚約の拘束力に関して、社会的にも考え方が変化しており、そうした傾向が慰謝料の高額認容を少なくしているようです。

婚約破棄に至る過程で、親による婚姻の反対が主原因となる場合があります。
そのようなケースでは、反対した親の共同不法行為責任が認められるときもあります。

A(女性)とB(男性)は、見合いによって婚約を行い、Aは結婚式の1ヶ月前に勤務先を退職しました。
BとBの母親は、嫁入り道具などの要求を行ったが、その嫁入り道具を運び入れる前日(結婚式の1週間前)に、仲人を通じてAに対して一方的に婚約破棄の通知をした。
婚約破棄の理由は、Aの容姿に対する不満であった。
判決では、Bと母親の共同不法行為が認められ、400万円の慰謝料が認容された。
(昭57・6・21大阪地判 判タ478-112)

この判例は、原告の請求額が100%認容された珍しい事例です。
勤務先を退職させ、嫁入り道具の準備まで指示した上で、結婚式の直前に一方的に婚約破棄をした訳ですから、比較的高額な認容となりました。
また、強硬な姿勢であった母親の共同不法行為責任も認められております。

このように、婚約破棄に至るまで、親の影響が大きい場合は、親の共同不法行為責任が問われることもあります。

男女問題や傷害事件などの和解文書作成には、悩ましい離婚協議書や示談書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトをご覧下さい。

器物損壊や建物損壊の慰謝料

交通事故などで、器物や建物を損壊した場合、その財産的損害が賠償されれば精神的損害も同時に慰謝されるというのが、判例の一般的傾向です。
つまり、物損に対しての経済的補償がされれば、別に精神的損害の慰謝料請求は認められ難い傾向があります。

以下に2つの判例を見てみます。

早朝に車が店舗兼用の家屋に衝突し、財産的損害に対しては56万500円の賠償がされた。原告は営業に関する損失や諸般の不都合を訴え、慰謝料を請求したが認められず、その認容額は5万円であった。
(東京地判昭45・4・20 判タ251-311)

これは物損に対しての慰謝料額は認めない立場をとっています。

深夜にトラックが家屋に衝突し、家屋は大破した。財産的損害の賠償額は660万円であった。被害者は3~4ヶ月も納屋暮らしを余儀なくされ、妻の日雇い労働の利益を逸するなどの損害が明らかであった。これらの要素を勘案して、60万円の慰謝料が認容された。
(松江地裁益田支判昭52・4.18)

これは被害者の生活に不便を来たしたことに対して、慰謝料を認めています。

判例では、物損に対しての慰謝料額は、財産的被害額の概ね1割程度を認容している傾向にあります。
物損事故の慰謝料について協議する場合は、判例のこのような傾向を参考にすると良いでしょう。

男女問題や傷害事件などの和解文書作成には、悩ましい離婚協議書や示談書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトをご覧下さい。

不貞行為の主たる責任

既婚の男性が職場の女性と浮気をして、配偶者の奥さんが浮気相手の女性に慰謝料請求を行うというケースは多いです。
例えば、以下のような判例があります。

原告の妻とA男は、結婚して子供が一人ある。被告の(不倫相手の)女性は、A男と8ヶ月の不貞関係を続けた。
夫婦は協議により離婚は回避したが、原告の妻は女性に慰謝料請求の訴訟を提起した。
(平4・12・10東京地判 判タ870-232)

この裁判では、妻は不倫相手の女性に500万円の慰謝料を請求しています。
しかし、判決による認容額は一桁少ない50万円でした。

その理由は、不貞行為の主たる責任は不貞行為を働いた夫にあり、不貞行為の相手方の責任は副次的であるということです。
つまり、不貞行為の責任を追求するなら、離婚して夫に慰謝料請求をしなさいということですね。
協議をして離婚を回避したなら、事件はほぼ解決しているという判断にもなります。

もちろん、不貞行為をした女性に責任は問えるのですが、夫の責任よりは低いということになるのですね。

不貞行為の慰謝料を請求するときは、このような背景があることを理解して、その金額を算定しなくてはいけません。

男女問題や傷害事件などの和解文書作成には、悩ましい離婚協議書や示談書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトをご覧下さい。

示談書に関するマメ知識のページを公開

示談書に関するマメ知識

悩ましい示談書や離婚協議書作成なら示談書作成エクスプレスのサイトにて、示談書に関するマメ知識のページを公開しました。
示談書を作成する上での予備知識や、様々なトラブルに関する判例の紹介などをしていく予定です。

継続的に情報を追加更新していきますので、時々覗いて頂けると幸いです。

夫婦間の契約

夫婦のどちらかが不倫をして、それが原因で夫婦仲がおかしくなることは、よくある話です。
その際に、すぐに離婚となってしまうケースもあれば、我慢して婚姻を継続するケースもあります。

そのような状況で婚姻を継続する場合、再度不貞行為を繰り返したら離婚するという条件を相手方に提示することもあるでしょう。
それだけでは足らずに、「再発したら、慰謝料として○○○万円を支払って離婚」という約束をすることもあります。

この約束に反して、不貞行為が再発した場合、この慰謝料は有効となるのでしょうか?

まず、不貞行為に関しては、明確な不法行為ですから、浮気をした配偶者は、夫婦の一方に慰謝料を支払う義務は生じます。
但し、金額は両者の協議で決められます。

民法754条では、「夫婦間で契約をしたときは、婚姻中いつでも夫婦の一方からこれを取り消すことができる」という規定があります。
つまり、夫婦の約束は、いつでも一方的に破棄しても良いということなんですね。
(民法改正案では、この規定を削除する動きはありますが、それでも現在も有効な規定です。)

そのため、先に約束した罰金としての慰謝料額は、取り消して協議のし直しという可能性が高くなります。
もちろん、相手が約束を守る意思があるなら、契約自由の原則通り、約束の金額が支払われる訳ですが。

夫婦間で示談書や公正証書を作成することは可能ですが、このようなリスクがあることは承知しておかねばなりません。
それでも、約束は契約書にしておきたいという趣旨で、ご依頼を承った実績はあります。

示談書は、誰が作るもの?

何らかのトラブルの被害者となった場合、その損害に対する慰謝料を請求するのは、民法でも認められた正当な権利です。

ただ、慰謝料を得るのが目的となって、その他の条件交渉は曖昧に終わっている事例も散見されます。
事件の再発防止策や、第三者に秘密を漏洩させないための守秘義務など、後からトラブルが再発しないための対策は必要不可欠なはずです。

それにも関わらず、慰謝料だけを得て、手続を終えてしまう方は多いですね。

「後から加害者に名誉棄損で訴えられた。」
「事件を口外されて、職場に居られなくなった。」
「執拗に悪口を言いふらされている。」

このような問題は、交渉を適切に行い、示談書を作成すれば、防ぐことは可能です。

また、相手方が提示した示談書を、よく読まずに判を押してしまう方も多いです。
あまりにも簡略な示談書では、事後のトラブルに関して、あまりに無防備です。

自分が被害者になった場合でも、加害者になった場合でも、示談書は自分から提示して、相手方の要望も組み入れ、納得いくものに仕上げたいものです。
相手が提示した示談書を採用することは、その時点で交渉が相手のペースになっていると自覚するべきですね。

条件がコロコロ変わる示談には(完全合意条項)

契約書を作成する際には、いろいろな定型的な文言があります。
その中に「完全合意条項」というものがあります。

これは、契約書作成前に交わした全ての約束を無効として、全ての取り決めは契約書のみに基づくことを確認する内容です。
通常の契約書では、当事者の信頼関係を阻害する恐れもあるので、この条項を採用するには慎重となります。

しかし、トラブルの示談書等では、過去に何度も誓約書や念書を交わし、その度に慰謝料の条件が変更されるというようなケースも多々あります。
念書を交わさなくても、口約束で条件がコロコロと変わることも、それほど珍しいことではありません。

そんな場合には、示談書が最終合意点であることを確認する意味でも、この完全合意条項が有効となります。
示談に辿り着くまでの道のりが長かった方は、この条項を盛り込むといいですね。
もちろん、それには示談書の契約内容を完璧にしておかないと、後から不都合が起きてしまいます。
そんな際には、専門家への相談が有効ですね。

示談書作成業務

職場や宴会でのトラブルや、男女問題・過失事故など、誰でもこうした問題の加害者や被害者になる可能性はあります。
トラブルは当事者の話し合いで解決するのが原則ですが、話し合いがついても安心できないことも多いです。
後からトラブルが再燃しないように、予防的な示談書を作成しておくべきですね。
遠山行政書士事務所では、和解合意後の示談書作成を承っており、その業務についての日誌です。